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みほしブログ

趣味は生活と読書。

真剣にふざけるには強靭な文体が必要です。―『金を払うから素手で殴らせてくれないか?』木下古栗

金を払うから素手で殴らせてくれないか?

木下古栗は、真剣に、不断の努力によって、ふざけることができる強靭な作家だ。『金を払うから素手で殴らせてくれないか?』は三つの中編が収められていて、そのどれもが徹底的にふざけている。

表題作は、失踪した米原を米原含む同僚三~四人(推定値)でフレンチ和菓子寿司寿司インドカレーと食い倒れしながら捜索するプチ・ロードノベルであるのだけど、「そこにいるじゃん!米原!」とつっこむのもためらわれるほど、米原含む同僚たちは無断欠勤による解雇を恐れながらも、米原が送って来るGPSの位置情報付きメールや趣味嗜好を手掛かりに真剣に米原を探していくのです。ふざけた鬼ごっこの結末がどうなるか。本を素手で殴りつけるか、おふざけの強靭さに驚嘆するかはあなた次第です。

アメリカ人ハワードとその世話を焼く日本人たちを二行読み飛ばしたら話の筋から振り落とされるほど濃縮した文章で描いた『Tシャツ』は不良に目覚める中年女性まち子の7ページにも渡る描写がすんごいです。卑猥な言葉も含まれているので人のいないところで音読してみてください、どんどん加速して最後は宇宙の光となれます。この7ページだけで1500円(税別)の価値はあります。

OLが異業種交流会をドタキャンし、社長の愛人のふりをして奥方へ謝罪に行く『IT業界 心の闇』は「え?そこで終わるの!?」と膝かっくんを食らってしばらく立てませんでした。話の筋なんてあってない(というより作者が自分で筋を消していっている)のに続きが読みたくなる、文章の遊びに夢中になれる小説なのです。

本書はTwitter上で一般ユーザーがその年出版された本のなかで最も面白いと思った小説に投票して一番を決める、Twitter文学賞の2014年の一位に選ばれたそうです。こんな本が一位に選ばれる日本の未来はとっても明るい。たとえ人類が絶滅しようとも。泣ける本なんてくそくらえ、という人にこそ読んでもらいたい小説です。

 

金を払うから素手で殴らせてくれないか?

金を払うから素手で殴らせてくれないか?